同じ出来事を二人の視点で書き分ける練習
視点人物を変えても、名前と一人称しか変わらない。書き分ける手がかりは、何を知っていて、何に気づき、どう受け取るかの違いです。待ち合わせに遅れた場面を二通りで書いてみます。
出来事そのものは、先に固定する
二つの文章で共通する事実を決めます。Aが十分遅れる。Bは店の前で待つ。Aは紙袋を持っている。Bは「遅かったね」と言う。この四つをそろえると、出来事ではなく見え方の違いを比べられます。
今回はAが途中でBの好きな菓子を買った設定にします。Bはその事情をまだ知りません。作者は両方の事情を知っていますが、各文章にはその視点人物が知れる範囲を使います。
待った側は、手がかりから推測する
角からAが走ってきた。時計を見ないようにしていたのに、袖をめくってしまう。「遅かったね」。謝る声より先に、紙袋が目に入った。買い物をしていたのだろうか。
Bには紙袋の中身も、買った目的も分かりません。推測を事実として断定しないことで、すれ違いの余地ができます。Bが遅刻に慣れているなら呆れ、心配していたなら足元や顔色に先に目が向く、と変えることもできます。
遅れた側は、理由と反応の間で揺れる
店の前にBを見つけ、紙袋の持ち手を握り直した。「遅かったね」。喜ぶ顔を想像して並んだことが、急に言い訳に思えた。「ごめん」と言ってから、袋を差し出すタイミングを探した。
Aは自分の理由を知っていますが、Bが何を思ったかは分かりません。「Bは怒っていた」と断定する代わりに、声や表情をどう受け取ったかを書く方法があります。同じ一言でも、聞く側の事情によって響きが変わります。
二つとも本編に入れる必要はない
視点違いの文章は、人物を理解するための下書きとしても使えます。本編で両方を載せると同じ出来事を繰り返すことになるので、新しく分かることや読後感があるかを考えて選びます。
練習の仕上げでは、各文章の「事実」「推測」「本人だけが知る事情」に線を引きます。相手の内面をいつの間にか知っている文があれば調整してください。性格ガチャで人物像を変え、注目する手がかりがどう変わるか試す方法もあります。